自閉症、こんな治療法があった"Puzzle of Autism" Yasko Japan com

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2007年6月5日 アメリカ "DISCOVER マガジン"掲載記事


自閉症:自閉症は脳の問題だけではない

自閉症の重篤な障害は消化管や免疫機構にもみられる。この予期しなかった発見によって、脳のみならず身体をも対象にする、新しい治療法が次々と考えられるようになった。   

ジル・ニーマーク

「ガレージのドアを閉め切って、車のエンジンをかけっ放しにして死のうと考えたときもありました」と、コロラドに住むエリン・グリフィンは、9年前に長男のみならず、息子が二人とも自閉症であることを知った時のことを思い出して言う。角張った顔に黒い髪を持つ彼女の長男ブレンダンが1996年に4歳で自閉症の診断を受け、その後丸顔で薄茶色の目をした彼女の次男カイルまでが1998年、2歳半で同じ自閉症の診断を受けたのであった。
だがカイルとブレンダンの話は悲劇的な結末とはならなかった。作業療法や言語療法などの介入、および食生活の変更や栄養補給剤により、両少年の病状は著しく改善した。この少年たちのゆっくりではあるが着実な回復は、今日の自閉症を取り巻く環境の変化を反映している。従来は遺伝性で、脳に起因するとみられていたこの疾患が、もっと広く従来と異なる観点から見られるようになり、免疫障害や神経性炎症障害の可能性も考えられている。そして自閉症の一部、そして恐らく多くの場合、治療が可能であろうと思われ始めている。
この疾患の急速な増加は、通常は見出しに載るような驚くべきニュースである。米国では過去20年間で、自閉症スペクトラム障害と診断される疾患が10倍になり、米国疾病管理センターによる2003年報告書では、今や子供166人に1人に自閉症スペクトラム障害がみられ、その他6人に1人に神経発達上の遅れが見られるという。このような自閉症症例の爆発的増加に対し、数多くの疑問の声が上がっている。このような増加は、本当なのか、あるいは皆の意識が高まり、診断のカテゴリーが増えたためなのか、または環境の変化によるものか、それともこれら全てが真実なのか?答えはひとつではないであろう。だが、自閉症に対する国民の懸念は、米国議会の注意を喚起した。昨年12月、Combating Autism Act,「自閉症対処法」が米国議会で承認され、自閉症関連の研究と治療に対して、この先4年間で約10億ドルの付与が認められた。
一方、免疫学者や自然療法家、それに神経科学者や毒物学者など様々な分野の専門家の中には、このような込み入った議論には加わらず、自閉症患者の治療につながる、新しい手がかりを発見するものもある。新しい研究では、ワクチン反応から胎盤の非定型的成長に至るまで、その原因となる因子、消化管の異常組織、脳内の炎症組織、食物アレルギー、および脳波の同期性障害などを考察している。遺伝子検査の結果から、従来とは異なる栄養療法を勧める臨床医もいれば、抗ウイルス剤や抗炎症剤を用いる医者もいる。
特に最近では、脆弱性遺伝子と環境的要因との相互作用に重きが置かれており、その上、複数の毒性物質や病原菌への低用量での暴露が自閉症とそれに関連する疾患の主な要因かもしれないとの意見が増えている。例えて言うならば、遺伝子が拳銃に弾を込め、環境が引き金を引くのである。「癌と同様、自閉症は非常に複雑な病気なので、遺伝子と環境との相互作用についての論議は興味深いものです。暴露の可能性のある因子は実に多量にあるのです。」とドレクセル公衆衛生大学の疫学・生物統計学のクレイグ・ニュウシャッファー主任は言う。
この分野は誰もが議論に参加できるので、ある意味では無秩序であるが、実現性の高いものもまた多いように見える。この中から画期的な意見をいくつか抽出できる。第一に、自閉症の定義は厳格ではなく、一般的な遺伝子変異である遺伝子多型が環境的要因によって変化することに起因する疾患である可能性がある。第二に、影響を受けた遺伝子が、体内の基本的経路を乱し、脳や免疫機構や消化器官など全体に慢性炎症を引き起こすのかもしれない。第三に、炎症は治療可能である。
「自閉症児の多くが、アレルギーや湿疹や慢性的下痢の病歴を持っているのも、今では偶然だとはとても思えません。」
「自閉症のような脳障害は、治療が不可能だと、長い間考えられてきましたが、その間も我々の治療で自閉症児は快方に向かっているのです。ですから、これは遺伝子や出生以前だけの問題ではなく、あるいは脳に組み込まれた、絶望的な疾患ではありません」と、述べるのは、医学誌、Clinical Neuropsychiatry 「臨床神経精神医学」に14,000語の論文を出した、ハーバード大学の小児神経科医のマーサ・ハーバートである。同誌は、自閉症の概念を再度見直して、脳が身体の他の部分から孤立した器官であるという従来の考え方を改めている。ハーバートはこの仕事に適した人材で、総合的な考え方ができる人物である。彼女は、発達心理学の専門家のジーン・ピアジェに関する卒業論文を書き、その後30代の前半で医科大学に進学した。
ハーバートは次のように語っている。「私は、今では自閉症が脳の疾患ではなく、脳に影響を与える疾患だと思っています。また免疫機構や消化管にも影響します。これを証明するようなことを、我々医者の中では気が付いている者が多いのです。その例として、医者の指示通り自閉症児の診断テストの前には何も飲食させない場合、子供の症状が良くなったと、親が報告する例がよくあるのです。でもテスト後に子供たちが飲食を始めるとすぐに症状が戻ってしまいます。食事を摂取しないことで、このように短時間で症状が良くなるならば、恐らく我々は、すばやい変化を可能にさせる、化学的に動く「ソフト」のようなもの(恐らく、免疫機構のシグナル)を目の当たりにしているのです。少なくとも一部の自閉症は一種の代謝脳障害(全組織に及ぶ作用)に起因し、肝硬変が脳に影響を与えるのと同様に、脳に作用するのです。」
1943年、ジョーンズ・ホプキンス大学の精神科医師、レオ・カナーは、社会参加が不得手なこと、言語的・非言語的に限定的なコミュニケーション、および反復的行動など、今では症状として一般に知られている一連の症状を、最初に自閉症と表現した。当時自閉症は、めずらしい疾患とされ、カナーはまず11人を自閉症として報告し、彼が診断したのは全部で150人であったと、ジョーンズ・ホプキンスに記録されている。この少数の患者の中にさえ、それ程明確ではないが、上記以外の症状がみられる。カナーは1943年の論文、「自閉症の感情性接触障害」の中で、免疫上および消化系の問題を記しているが、これを診断の中には含めていない。様々な症例の病歴には、ぞっとするような文章が綴られている。「大きくて、ぼろぼろの扁桃腺・・・・・彼女は毎日5回も経管栄養を受け・・・・・彼は誕生後3ヶ月の間全ての食べ物を吐いた・・・・・彼は繰り返し風邪を引き、中耳炎を患った・・・・」。
初期の段階では、明瞭な行動上の症状を、もっと基本的で、目立たない生物学的機能障害に結びつける手がかりが欠けていたと、ハーバートは思っている。「胎児や小児の体内で遺伝子と環境が、相互作用して、全身の細胞の機能を変化させ、次いで脆弱な多くの器官の組織や代謝に影響を与えるのだと私は思います。そしてこのような様々な異常が相互に作用して、感覚処理の変化や脳内調整の低下を誘います。これらの異常が、いわゆる自閉症という異常行動を生み出すのです」。

黄色の部分は、自閉症患者に見られる、増大した白質である。赤い部分は、灰白質を示し、自閉症患者の場合は比較的小さい。
(形態計測的分析センターからの無料提供による、MGH-Harvard)
体全体から自閉症を捉えるハーバートのやり方は、自閉症の診断をめぐる混乱を解決する上で役立ち、またこの疾患の多様な形態のために、自閉症には複数の種類があるという意見が一般的になり始めているが、それを評価するものである。ニュウシャッファーが指摘するように、「アスペルガー症候群の子供たちは、重症の自閉症の子供達と同じような行動を取ることも多いのです。アスペルガー症候群は自閉症と同じ疾患なのでしょうか?原因は同じなのでしょうか?自閉症に顕著な特徴のいくつかは、現段階では治療分類に含まれていませんが、最終的には、顕著な特徴から原因となる経路が区別できるようになるでしょう。子供はどのような状態で寝ていますか?胃腸症状はありませんか?このように観察することによって、我々が今まで見たこともない危険因子との関連が見出せるかもしれません。」
ハーバートは、自閉症をレーザー写真に例えている。「自閉症には、私を引き付けるものが、全てあります。疫学、毒物学、科学原理、生化学、遺伝学、システム理論、医療制度の崩壊、および管理ケアの失敗です。私の部屋に入ってくる子供は皆、私が持っている知識に対する挑戦なのです。そしてその子供たちは、私に対してカテゴリーに囚われず、独創的に考えることを求めるのです。」
自閉症への経路は子供によって異なるかもしれないが、共通した炎症性異常を抱えているとハーバートは言う。そして脳の形態計測画像を見せながら、ニューロン間にインパルスを伝達する白質が自閉症児では大きくなっていることを示した。
「この画像は、今までに見た脳のデータの中で最も優れた情報でした」と、ハーバートは2001年から2002年にかけて、この脳の画像データを分析した時のことを思い起こしながら述べた。「他の人は、白質を見るのではなく、大脳皮質を見なさいと言うけれど、白質に重要な発見があると思っていました。」
白質が慢性的に炎症を起こすことがあるのだろうか?ジョーンズ・ホプキンス大学の神経学者、カルロス・パルドは彼の新しい研究の中でその可能性を認めている。「神経学年代記」に掲載した2005年の研究の中で、彼は自閉症患者の免疫応答性脳細胞に炎症を認めている。「自閉症患者では、多くの免疫上の問題が報告されています。我々は脳の中にこれらの問題のフィンガープリントを探しました。5歳から45歳までの自閉症患者から脳の組織を採取し、その全てから神経膠の炎症を見つけました。神経膠は脳の免疫応答に重要な脳細胞群です。炎症反応は、自閉症の初期と後期の両方に認められるようです。もし炎症が初期に出現すれば、脳の成長に多大な影響を与えます。我々がこの研究に大変興味を持つのは、脳の免疫反応を減少させれば治療できる可能性があるからです」と、パルドは言う。この治療法の研究のために、パルドはNIHからの資金援助によるパイロット研究に協力し、抗炎症性抗生物質であるミノサイクリンを自閉症児に与えて試験している。「ミノサイクリンは、ミクログリアの炎症を選択的に減少させます。神経科医はすでに多発性硬化症やパーキンソン病に対してこの薬剤を使用しています」と彼は述べている。
「自閉症はさまざまな特徴を統合したものです。行動、認識、感覚運動、消化管、免疫、脳および内分泌などの異常を含みます。これらの異常は進行し、脳だけに限定されません。自閉症児のうち、食物や空気中浮遊物によるアレルギー、耳感染症(20から30症例)、湿疹または慢性の下痢などの病歴が多いのは、偶然とは思えません」と、ハーバートは語っている。
このことは、この疾患に対する治療法についてもコペルニクスの地動説と同等の意識の転換を求めるものである。私自身、オンラインのビデオで、11歳の重症の自閉症児が水銀除去を目的とした一連のキレート治療を受けたあと、「ママ、僕は生き地獄から戻った」と述べるのを見て、この問題に思わず引き込まれた。単純な言葉ながら、感動的であった。水銀のキレート化は、特にこの子供の場合は効果的な治療であった。
フロリダ州、オビードのリサ・ベックも同様の話を語る。息子のジョシュアは、2004年の2歳の頃に自閉症と診断された。体内から重金属を取り除くキレート化治療や食事療法やその他の治療を18ヶ月間集中的に受けた後、彼の外見は健常人と同じようだった。「私達は息子をネムール小児クリニックの専門医であるレスリー・ギャビン医師の処に連れて行き、スペクトルの何処に異常があるのか診断する、ADOSテストを受けました。2時間の評価の後で、ギャビン医師は、ジョシュアが自閉症の基準を満たしていないと言いました。同医師によると、『彼は、敏感に反応し、物事に興味を示し、活動的であり、問題なくADOSテストに取り組み、自分のことを明確に表現できています』ということでした」と母親は述べた。
だが、興味深い逸話はさておき、特定の脆弱な遺伝子は本当に存在するのであろうか、あるいはそのような遺伝子がどのようにして免疫機構や脳や消化管に損傷を与えるのか、また損傷の修復を手助けする理論的で、信頼できる方法があるのだろうか?
答えは条件付の「イエス」です。
「我々は、遺伝学は実際には脆弱性に関する研究だと、理解し始めたところです」と述べるのは、バンダービルト・ケネディ・発育研究センターの神経科学者、パット・レビット所長である。レビット所長と同僚達は、METというごく一般的な遺伝子の変異体が自閉症リスクを二倍にすることを最近発見した。METは神経系や消化管や免疫系を調節するので、この発見は大きな成果とみなされた。つまり自閉症に対する新しい見方と一致した発見であった。
「皆は、脳内に発現する遺伝子に注目していましたが、この発見された遺伝子は、胃腸や免疫機能の修復に重要なのです。そしてとても興味深いことに、一部の自閉症児は消化器官や免疫に問題があります」と述べた。さらに遺伝子の変異は人口の47%に生じる。すなわち遺伝子の変異はひとつの要因に過ぎず、恐らく他の脆弱な遺伝子と協力して作用すると思われる。そして最終的には、他の研究者達も興味を惹かれるように、捻転の中で、遺伝子の活性は酸化的ストレス、つまり毒素への過度な暴露に起因するある種の損傷によって影響を受ける。「METのような脆弱な遺伝子を他にも同定できれば、小児に有効な治療法を開発できるかもしれません」とレビット所長は言う。彼はMET遺伝子変異体マウスモデルを使って研究したいと思っている。


毒性と自閉症との関係
上段と中段の地図はテキサス州の各郡における自閉症の発病率を1990年代前期(上)と後期(下)で比較したものである。青い地図(一番下)は2001年に各郡で放出された毒素の重量(ポンド)を表わす。青い地図で最も色の濃い部分は、過去10年間の自閉症発病率の増加が最高の20%に達した群を示す。毒素と自閉症の相関関係が示唆されるが、確定的ではない。
(テキサス大学、保健センターのレイモンド・パルマーとOur Lady of the Lake大学のスチーブン・ブランチャードからの無料提供資料)
他の誘発性に関する研究としては、アーカンサス子供病院研究所、自閉症代謝ゲノミクス研究室のジル・ジェームス所長(アーカンサス医科学大学、小児科教授でもある)は、自閉症児の多くは、グルタチオンという化合物の産生が健常児より少ないことに気が付いた。グルタチオンは細胞の中で最も豊富に存在する坑酸化作用物質で、毒素の除去に不可欠である。細胞に充分な坑酸化作用物質がないと、細胞は酸化的ストレスを受けて、慢性的な炎症を引き起こすことがよくある。
2006年the American Journal of Medical Genetics(アメリカ遺伝医学学会誌)に掲載されたジェームス所長の最新の研究の中で、彼女はグルタチオン経路を支える、一般的な遺伝子の変異体が自閉症リスクと関連があるかもしれないと記している。興味深いことに、この経路は代謝上メチル化経路と関連する。メチル化は基本的な生化学的過程であり、どの遺伝子を発現させるかの調整を助ける。そしてメチル化の異常は、発病の原因と生り得る。メチル化経路は、グルタチオンに前駆物質を提供するので、メチル化の機能障害もまた酸化的ストレスを引き起こすことができる。「自閉症的行動の一部は、遺伝子ベースの、全身性代謝異常の神経学的症状だということが示唆されます」とジェームス所長は述べる。彼女が研究の中で述べている、メチル化の異常の中には胃腸や免疫学的な機能障害と関連するものがある。
良いニュースとしては、酸化的ストレスは、一部の自閉症児の場合は、対象食物の栄養学的介入によって治療できる可能性があることである。ジェームス所長と同僚は、メチル化経路の主要栄養素をサプリメント(フォリン酸、トリメチルグリシンおよびメチルB12)で摂取している、8名の自閉症児を追跡記録し、メチル化とグルタチオン合成のマーカーに顕著な増加を認めた。次の段階は、自閉症の症状の好転を調べることである。
ジェームス所長と同僚は、NIH(国立保健研究所)から240万ドルの補助金を受けたばかりで、その一部は、代謝と遺伝子と言動との関係を研究する費用に当てられる。「特定の代謝物の異常が個々の自閉症児の行動の違いに関係することが分ったら、素晴らしいでしょうね」とジェームス所長は述べる。ジェームス所長達は、次いで18ヶ月から24ヶ月までの子供を調べようとしている。この年齢は通常自閉症の診断は行われない。この研究は、自閉症の原因の同定に役立ち、早期の治療を可能にするかもしれない。
「我々はさらにミトコンドリアの機能障害を調べるつもりです。ミトコンドリアは細胞のエネルギー発電所であり、ここでフリーラジカル(酸化的ストレスで重要な役割を果たす)の大半が作られます。もしミトコンドリアの電子伝達系に欠陥があり、ATPを充分に産生できない場合は、フリーラジカルが増加してグルタチオンを枯渇させるでしょう。この仮説が正しいと判明すれば、我々は補酵素Q10、マグネシウムやアセチルーL−カルニチンのような栄養素を与え、ミトコンドリアを安定させることができます。これはまだ仮説の段階ですが、科学ではよくこういう仮説を立てるのです。物事を推測して、研究して、結果を持つのです。」とジェームス所長は言う。
「代謝異常についてこのような研究が行われるのは、興味深いです。子供の場合、グルタチオンのバランスは、毒性の環境暴露という点から見て非常に重要な問題です」と分子生命科学の委員長で、デービス・カリフォルニア大学小児環境衛生疾病予防センター所長のアイザック・ペッサーは述べている。
ペッサーは、高度に工業化し、化学物質が染込んだ地球環境とそれが一部の人間の脆弱な遺伝子に及ぼす影響が自閉症の主要原因である可能性を述べている。2006年12月、ハーバード大学の研究者たちは、医学誌ランセットの中で、工業用化学物質が世界中の子供たちの脳の発達を妨げている可能性を大胆にも発表している。2006年11月、デービス・カリフォルニア大学のM.I.N.D.学会の会議で、ペッサーは専門家を集めて、自閉症における環境毒物学の臨床的意義を討議した。「我々は、環境における膨大な種類の化学物質について討論し、慢性的に低濃度の暴露を重複して受けていることに関し、いかに未解明であるかを議論しました。現在我々が把握している自閉症の多くは現代の新しい疾病なのかもしれません」とハーバートと語る。
大規模な連邦政府の援助金により、自閉症のバイオマーカーおよび環境的要因を特定するための、疫学的研究がいくつか進められている。「大型研究によって、遺伝子と共に環境をも調べることができるのです」と、この先5年間で2700人の子供を調査する予定の、米国疾病管理センターの研究責任者、ニューシャッファーは言う。
「神経の発達に影響を与える化学物質に関して言えば、8万5000の化学物質の中で研究されているのは、20個から30個のみです」
さらに「自閉症出生児コホート」と呼ばれる大がかりな研究で、コロンビア大学とノルウェー公衆衛生協会は、10万人の妊婦を72ヶ月間追跡調査して、健康状態と遺伝を研究し、血液から尿に至るまで全てのテストを行っている。食物あるいは重金属、殺虫剤、製品に含まれる多数の合成分子などの毒素に対する感染など、自閉症リスクの原因となる環境要因を発見したいという希望を抱いている。

上の図:自閉症患者の脳に見られる大グリア細胞の炎症(緑色の細胞)。
下の図:自閉症患者の小脳に侵入するミクログリア細胞の炎症(茶色の細胞)。青色の細胞は小脳内の顆粒細胞である。
(ジョーンズ・ホプキンス大学のダイアナ・エル・バーガスとカルロス・エイ・パルドからの無料提供による)

NIHやEPAからの大規模な資金援助により、自閉症の原因である可能性を持つ免疫異常を見つけ出す研究が行われている。自閉症児と健常な小児を持つ700以上の家族についての研究で、ペッサーと同僚は自閉症児の場合、免疫応答に重要な役割を果たす、免疫グロブリンの顕著な減少と異常な種類のサイトカインを発見した。「免疫機構は、神経の発達の面で重要です。我々は脳のプロテインに影響する可能性のある免疫抗体を発見しました。この先5年間で、総計1600家族を研究したいと思っています。多くの家族を集めないと、統計的検出力が十分ではありません。個々の自閉症児の免疫応答にどんな歪みがあるのかを発見し、ハイウェイや毒性廃棄物処理場の近くなどでの有毒物暴露を隔離したいと思います」とペッサーは言う。
「遺伝子研究者が決定的な情報を解明できていない現在でも、我々は経路の障害を研究することができるのです。結局のところ、遺伝子が行動などを特定することはありません。遺伝子は、高度に複雑な方法によって、相互に作用する制御因子を作ります。神経の発達に影響を与える化学物質に関して言えば、8万5000の化学物質の中でまだ20個から30個しか研究されていません。我々は、組織の炎症を治療して、自閉症の調整を試みることはできるのです」とハーバートは述べている。
つまり、数十年後に科学の小槌が最終的に振り下ろされる前に、今の段階で治療をしてしまおうということです。エリンと夫のマイケルがブレンデンとカイルに行ったことも、そのような治療でした。彼らは、言語療法や作業療法といった主流の治療を、最良と思われる生医学的方法で行いました。「息子たちを家に連れ帰り、可愛がってあげるようにと言われました。神経学者は、代替医療はまだ何も証明されていないから、そのような治療で時間を無駄にしないようにということでした。息子たちは、将来は精神病院に入院生活を送るか、または夫と私が一生彼らの面倒を見ることになったことでしょう。自分の子供が自閉症と診断されれば、その子が将来は大学に行き、結婚して、親になるだろうという我々の夢が消えてしまうのです。オプションは他にないのです」とエリンは言う。
この二人の少年は、まず「自閉症を今打ち破ろう」(DAN!) というグループによるトレーニングを受講した経歴を持つ、代替医療の開業医の診察を、コロラドまで受けに行った。DAN! グループは、1995年に自分の息子も自閉症を患う精神科医、バーナード・リムランドにより共同設立された。DAN! グループの治療は、胃腸問題、解毒、栄養、神経系炎症に注目する。その助言として、通常はグルテン(小麦粉や他の穀物に含まれる)と乳製品を取り除く、食事上の制限を含む。
「カイルがミルクを止めてから4週間後に、解毒作用の影響のように、全身にみみず腫れができました。それと同時に始めて正常な排便がありました。また睡眠も改善しました」とエリンは語った。
その他DAN!グループが推奨する治療としては、重金属やその他の汚染物質を除去する解毒治療、栄養素の補充療法、時には承認適応症外使用の抗炎症薬、抗ウイルス薬、およびアレルギー治療薬が含まれる。このような、いわゆる生物医学的治療には、1ヶ月数百ドルという、比較的安価な食事療法から、値段が数百ドルもする抗真菌剤まで様々である。DAN! グループが使うサプリメントの多くは、ジル・ジェームスのような科学者達が研究する経路に対して、極めて重要な役割を果たすものである。DAN! グループの開業医たちは、このような代替治療の効果が科学的に証明される前に、思い切ってプールの深い場所に飛び込んでいるようなものであるが、症状が改善したという事例報告が数多く寄せられている。
予想通り、バイオメディカル治療に対し、特に、医者が期待させ過ぎたり、親が回復を熱望し過ぎたりする場合には、批判が出ている。ある母親が自分の自閉症の娘にあらゆる治療を試したが、直らなかったため自殺した。これをきっかけにして、自閉症児を抱える親の間に怒りの声が上がったとジェームスは言う。
一部の子供は、どんな治療を施しても良くならない。エリザベス・マンパーは、「児童擁護者」グループのCEOで、バージニア大学に所属するリンチバーグ家族医療プログラムの元小児教育責任者である。彼女が診た2000人の子供の中で400人は自閉症スペクトル障害がある。彼女は1人の少年について語った。「最大限の努力をしたにも拘らず、私はその少年を助けることができていません。彼は17歳ですが、言葉を発することができず、胃腸病専門医と緊密な関係を持っていますが、酷いびらん性食道炎を患っています。寝る時も痛みがあるので、立ったまま箪笥に寄りかかり、また薬に対して特異体質性反応を示します。言葉は使えませんが、タイプを使って何でも私と話すことができます。彼は知能指数が高いのです。だが残念ながら、体が云う事を聞きません」と彼女は述べる。
「私は、誤った期待を持たせるので、『全快』という言葉が、好きではありません。子供の中には、診断に落胆する子もいますが、それは稀なことです。しかし全快を目的にすべきではありません。我々は自閉症の子供をあるがままに受け入れ、愛情を注ぐ必要があります。彼らは本当に可愛いのです。突飛なところがありますけど」とジェームスは付け加えた。
エリンの息子たちには、DAN! グループの医者が役立った。だが2003年に、エリンはメイン州に本拠を置く、極めて型破りの分子生物学者で、自然療法医であるエイミー・ヤスコの治療を受けるようになり、それ以降息子たちに顕著な変化が認められたという。ヤスコは、メチル化の新しい研究成果と、体内における解毒の基本的経路に関する科学者としての彼女の経験とを融和させた。だが彼女は薬の処方より、ハーブ薬や食事の内容の変更および栄養補給剤の方をむしろ好む。そして1週間か2週間に1回尿中の解毒バイオマーカーを監視し、適宜栄養補給剤を微調整する。ヤスコのプログラムは、徹底的で分子生物学に深く根ざしている。そして年2回の面談は極めて密度が濃く、科学的で、自閉症児の両親が、生化学に関して少なくともセミプロ並の知識を習得できることを目的にしている。ヤスコのやり方は今までの医者と患者の関係とは、全く異なる。現在は、電話相談をおこなってから、主にインターネット上で、テスト結果を伝えている。彼女がこのような方法を取るようになったのは、患者の順番待ち名簿が、5年先までいっぱいという事態に陥ったため、大勢の子供たちを救えないと思ったからである。エリンは、息子二人の金属の「ゴミの山」を表す40の尿検査表を私にE-メールしてきた。尿検査はヤスコの指示で実施され、グラフにしたもので、ヒ素、アルミニウム、水銀、鉛などの排泄を示す。「ヤスコに診てもらうようになってから、少しずつながら本当に良くなってきました。」とエリンは語った。
「私は、カリフォルニア大学バークレイ校の生物化学・分子生物教授のブルース・エイムスにちなんで、この方法を生体分子栄養ジェノミクッス<Nutrigenomics>と呼んでいます。エイムス教授は、いつの日か遺伝子多型の検査はごく一般的に行われるようになり、栄養的な介入で病気を治療することが、ゲノム分野の大きな利点となるだろうと語っていました。」と、ヤスコは述べている。ヤスコは、メチル化経路の一般的な遺伝子多型を検査しますが、研究成果はまだ確たるものではない。このため、同僚の間では彼女に対する意見は分かれている。だが、自閉症治療に携わる医者や科学者の中には、個人的に彼女の治療を利用している者もいるが、彼女を支持して記録に残されるのを、望まない。
ヤスコは、夫と3人の娘と一緒にコネチカット州からメイン州の田舎へ引っ越した。「積もった雪の上に雪の結晶が舞い降りる音を聞き、静かな場所で考え事をするのに適した場所です。」と語り、論争問題を気にしていない様子である。「私は、長い間研究の世界に身を置き、論文も出してきました。またバイオテクノロジーも長く研究しましたが、学問の世界では論争など巻き起こさないよう、波風を立てないようにしなくてはなりません。自閉症の子供たちを診るようになってから、学会論文誌に発表するのではなく、直接自閉症児の親達に働きかけたいと思ったのです。このようなやり方は、世間から総攻撃を浴びることは解っていました。でも構いません。私は、よく映画に出てくるような崖の上に立っていて、飛び込もうとしているようなものです。下に水があるかどうか、あるいは対岸に行き着くだけの体力があるかどうかも分らないのですが、とにかく飛び込むのです」とヤスコは話す。
我々は、どういうわけか解らぬままに閉じ込められてしまった脳と体を、正常に戻せるのだろうか?もしそれが自閉症に可能なら、他の障害にも新しい光が当てられるのだろうか?
エリンの2人の息子は、学校で個別のプログラムに取り組み、複数の自閉症児を抱える家族に対し、国が行っている二つの研究でモニターの対象となっている。デューク人間遺伝学センターとワシントン大学での研究である。さらにカイルは、コロラド健康科学センターの幼児発達プログラムで3回テストを受けた。二人ともいまだに自閉症スペクトル障害には含まれるが、絶え間ない癇癪、消化器系の病気、および感染症は無くなった。ブレンダンは、もう自分のシャツを噛んだり、手をバタバタさせたり、歯軋りすることがなくなった。実際に昨年、彼は学級の優等生名簿にも名前が載った。1996年以来の担任であるケリー・スウィフトは、彼らを評して、「社交的で、概ね幸福そうで、ユーモアもあります。カイルは、私が扱った自閉症の子供の中で最も大きな変化を見せた例です」と述べている。
カイルは2歳の時に話すのを止めたが、今では独創的な言葉を次々に発する。エリンと二人の息子が週末を私の家で過ごしたことがあるので、私は実際にそういう現場を目撃した。昼食時にカイルは、ケチャップを山のように自分の皿に載せ、フレンチフライド・ポテトでボートを作って、自分の口に入れる前にケチャップの中に浮かべ、それからレガッタ・レースの実況を物まねして、我々を楽しませた。勿論レースに勝ったのは、彼であった。自閉症だった子供が、なんて一風変わった独創的なことを次々に考え出すのだろう、と思った。
この少年たちの進歩は、テストでは計れないと、彼らの母親は言う。「その前進ぶりは、彼らの文章の長さや、感情移入、ユーモアのセンスに表れています。祭日で家を明るく照らしている家の前を昨夜通りかかった時に、カイルは、『あの人は宇宙から見てもらいたいの?』と冗談をいうのです。また昔は、カイルを歯科医に連れて行く度に、彼があまりに泣き喚くので、彼を赤ん坊のように板に載せて、シーツに包んだものでしたが、それでも泣き止みませんでした。そこで歯の掃除だけなのに、彼を眠らせなければならなかったのです。ところが去年我々が歯医者に行った時、小さい少年が泣いているのを見て、カイルはそばに行き、背中を撫で、痛くないから大丈夫だよ、心配ないよと、その子に言ったのです。私の胸はいっぱいになりました。」
我々は、どういうわけか解らぬままに、閉じ込められてしまった脳と体を正常に戻せるのだろうか?もしそれが自閉症に可能なら、他の障害にも新しい光が当てられるのだろうか?マーサ・ハーバートは、それは可能だと考えています。多くの代謝経路は生命にとって非常に基本的なものです。もし我々が、自閉症の謎を解明し、解明方法を明確にできれば、環境によって引き起こされる他の全身性疾患にも大きな影響を与えることになります。自閉症は、我々皆にとって、切望されるモーニングコールのようなものかもしれません。
 
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